会社では、毎日のようにさまざまな出来事が起こります。
商品を仕入れたり、商品を販売したり、銀行からお金を借りたり。
こうした出来事を、簿記では「取引」として記録していきます。
でも、ここで少し不思議なことがあります。
一般的には「取引」と呼ぶような出来事なのに、簿記上の取引にはならないものがあります。
反対に、
普段の感覚では「取引」とは呼ばないような出来事が、簿記上の取引になることもあります。
なぜでしょうか?
今回は、この違いを考えながら、
「簿記上の取引とは何なのか?」
をやさしく整理してみましょう。
まず、「取引」と聞くと何を思い浮かべる?
普段、「取引」という言葉を使うときには、
- 商品を買う
- 商品を売る
- 契約を結ぶ
- サービスを購入する
など、人や会社の間で何かをやり取りすることをイメージすることが多いと思います。
たとえば、
「会社が商品を100万円で仕入れる契約を結んだ」
これは、一般的には「取引」と呼んでもおかしくありません。
ところが、簿記では、
「取引をしたかどうか」だけでは、仕訳するかどうかは決まりません。
ここがポイントです。
簿記では「会社の状態が変化したか」を見る
簿記が記録したいのは、単純に「誰と誰が契約したか」ではありません。
簿記では、
その出来事によって、会社の資産・負債・純資産・収益・費用に変化があったか?
ということを考えます。
たとえば、銀行から100万円を借りた場合。
会社の普通預金が100万円増えます。
同時に、将来返済しなければならない借入金も100万円増えます。
つまり、会社の状態が変化しています。
だから、これは簿記上の取引です。
仕訳にすると、
普通預金 1,000,000円 / 借入金 1,000,000円
となります。
一般的には「取引」でも、簿記上の取引にならないもの
では、逆のケースを見てみましょう。
たとえば、会社が商品を100万円で購入する注文をしたとします。
一般的には、商品を購入するための取引を始めた、と考えることができます。
しかし、この時点では、
- 商品はまだ届いていない
- お金もまだ支払っていない
- 買掛金などの債務も、通常はまだ発生していない
という状態です。
つまり、注文しただけでは、通常、会社の資産や負債などに変化はありません。
そのため、注文しただけでは、通常は仕訳をしません。
「契約」も同じように考えられる
たとえば、
「新しい店舗を借りる契約を結んだ」
という場合も、契約を結んだという事実だけで、すぐに仕訳するとは限りません。
実際に賃借が開始され、会計上認識すべき資産・負債などが生じるかどうかを考えます。
つまり、
一般的な意味で「取引」が成立したかどうかと、簿記上、仕訳が必要かどうかは同じではありません。
では、逆に「取引ではないのに」簿記上の取引になるものは?
ここが、簿記を理解するうえで面白いところです。
たとえば、会社の商品が火災によって焼失したとします。
普段の言葉で、
「火災と会社が取引した」
とは言いませんよね。
でも、会社の商品という資産がなくなっています。
つまり、会社の財産の状態が変化しています。
そのため、簿記では記録する必要があります。
同じように、
- 商品が盗難にあった
- 建物や備品の価値が減少した
- 減価償却を行った
といった出来事も、一般的な意味で「取引」とは感じにくいかもしれません。
しかし、会社の財産や利益の状態に変化が生じるため、簿記では記録します。
「取引」という言葉の意味が違う
ここまでを見ると、少し不思議に感じるかもしれません。
なぜ簿記では、普通の「取引」と違う使い方をするのでしょうか?
それは、簿記の目的を考えると分かります。
簿記は、
会社の財産や、その増減、そして利益の状況を記録するための仕組み
だからです。
そのため、
人と人との間で何かをやり取りしたか
だけではなく、
会社の財産や負債などに変化が起きたか
を見る必要があります。
だからこそ、
商品を注文した
→ 一般的には取引でも、通常はまだ仕訳しない
一方で、
商品が火災で焼失した
→ 一般的には取引とは呼ばないが、簿記では記録する
ということが起こります。
4つのケースを並べてみよう
ここまでを表にすると、違いが見えてきます。
| 出来事 | 一般的な「取引」 | 簿記上の取引 |
|---|---|---|
| 商品を仕入れた | ○ | ○ |
| 商品を注文した | ○ | × |
| 銀行からお金を借りた | ○ | ○ |
| 商品が火災で焼失した | × | ○ |
ポイントは、
「取引」という言葉を、普段の意味だけで考えないこと。
簿記では、
会社の資産・負債・純資産・収益・費用に変化をもたらす出来事か?
という視点で考えます。
「お金が動いたか」だけでも判断できない
ここも大切です。
簿記上の取引かどうかを、
「お金が動いたか?」
だけで判断することはできません。
たとえば、銀行から100万円を借りると、お金は入ってきます。
でも、その100万円は売上ではありません。
一方、減価償却では、その時点で新たにお金が出ていくわけではありません。
それでも、費用として記録します。
つまり、
「お金が動いたか」ではなく、「会社の状態に変化があったか」
を見ることが大切です。
簿記上の取引を見つけたら、次に「何が変わった?」と考える
簿記上の取引だと分かったら、次に考えることがあります。
それは、
「何が増えた?何が減った?」
です。
たとえば、銀行から100万円を借りた場合。
- 普通預金 → 増えた
- 借入金 → 増えた
だから、
普通預金 100万円 / 借入金 100万円
という仕訳になります。
商品を販売した場合なら、
- 売上が発生した
- 現金や売掛金などが増えた
というように考えます。
このように、
取引を見つける → 何が変化したか考える → 仕訳する
という順番で考えると、仕訳が単なる暗記ではなくなってきます。
「簿記上の取引」を理解すると、仕訳が分かりやすくなる
簿記3級では、たくさんの仕訳を覚えることになります。
でも、
「これは借方?貸方?」
と最初から考えるのではなく、
まず、
「会社に何が起きたんだろう?」
と考えてみましょう。
そして、
① 簿記上の取引なのか?
↓
② 会社の何が変化したのか?
↓
③ 増えたのか、減ったのか?
↓
④ それを仕訳にするとどうなるか?
という順番で考えていきます。
この流れが身につくと、初めて見る仕訳でも考えやすくなります。
まとめ|簿記では「会社の状態の変化」を記録する
「取引」という言葉は、普段の生活でも使います。
でも、簿記でいう「取引」は、少し意味が違います。
一般的には取引と呼ぶような、
商品を注文する、契約を結ぶ
といった出来事でも、会社の資産や負債などに変化がなければ、通常はまだ仕訳しません。
一方で、
火災による商品の焼失や減価償却
のように、一般的には「取引」と呼ばない出来事でも、会社の状態に変化があれば簿記では記録します。
だから、簿記では、
「これは取引かな?」
と考えるだけでなく、
「この出来事で、会社の何が変わった?」
と考えてみることが大切です。
取引 → 何が変わった? → 仕訳 → BS・PL
この流れを意識すると、簿記の仕訳が少しずつ「意味のあるもの」として見えてきます。
会計サプリからひとこと
簿記では、たくさんの仕訳を覚える必要があります。
でも、一つひとつの仕訳には、必ず「会社で何かが起きた」という理由があります。
「この仕訳は、会社の何が変わったことを表しているんだろう?」
そう考えてみると、簿記は少しずつ、暗記するものから考えて理解するものに変わっていきます。


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