経理部では、担当者が退職すると、残されたメンバーの仕事が一気に増えることがあります。
月次決算や年次決算は待ってくれません。請求書の処理や支払業務も、誰かが引き継いで進める必要があります。
その結果、残ったメンバーが忙しくなり、さらに別の人が退職を考える。
こうした状況が続くと、経理部全体が疲弊してしまうこともあります。
では、なぜ経理部では退職が問題になりやすいのでしょうか。
今回は、個人が「経理を辞めたい」と感じる理由ではなく、経理部で退職が続く背景と、組織として考えたい問題について整理してみます。
経理部で退職が起きると何が問題になる?
経理部の仕事には、毎月発生する定型業務と、決算などの特定の時期に集中する業務があります。
例えば、次のような仕事です。
- 請求書の確認や支払処理
- 経費精算や仕訳入力
- 売掛金・買掛金の管理
- 月次決算・年次決算
- 監査対応や税務関連の資料作成
- 会計処理に関する社内からの問い合わせ対応
担当者が退職しても、これらの業務がなくなるわけではありません。
むしろ、退職した人が担当していた仕事を、残ったメンバーが引き受けることになります。
さらに、担当者しか知らない処理や、過去の経緯を把握している人がいなくなると、業務そのものを進めにくくなる場合もあります。
つまり、経理部の退職問題は、単に人数が減るという話ではありません。
仕事を進めるために必要な知識や経験まで、同時に失われる可能性があることが重要です。
① 業務が特定の人に集中している
経理部で起こりやすい問題の一つが、業務の属人化です。
例えば、ある担当者だけが特定の取引先の処理方法を知っていたり、複雑な会計処理の経緯を把握していたりするケースです。
本人が担当している間は、問題なく仕事が進んでいるように見えるかもしれません。
しかし、その人が退職すると、周囲は次のような状況に直面します。
- 処理方法が分からない
- 過去の仕訳の理由が分からない
- 確認先が分からない
- 資料の保存場所が分からない
- どこまで処理が終わっているのか分からない
こうした状況では、残ったメンバーが調査や確認に多くの時間を使うことになります。
そして、業務をよく知っている人に質問が集中し、その人の負担も増えていきます。
属人化は、担当者本人の努力不足だけで起こるものではありません。
日々の業務に追われ、手順書を作る時間がないことや、長年の経験に頼って仕事を進めていることも背景になります。
人が辞めても業務を継続できるようにするには、個人の経験を組織全体で共有できる形にしていくことが大切です。
② 退職しても仕事が減らない
経理部では、退職者が出ても、業務量そのものは変わらないことが少なくありません。
毎月の支払日や決算スケジュールは決まっています。担当者が減ったからといって、すべての期限を後ろにずらせるわけではありません。
そのため、退職者の仕事を残ったメンバーで分担することになります。
しかし、すでに各自が担当業務を抱えている場合、追加の仕事を引き受ける余裕がないこともあります。
結果として、次のような悪循環が生まれる可能性があります。
- 退職者の仕事を残ったメンバーが引き受ける
- 一人当たりの業務量が増える
- 残業や確認不足のリスクが増える
- 教育や業務改善に使う時間がなくなる
- 職場の負担がさらに大きくなる
ここで考えたいのは、単純に「もっと効率よく仕事をすればよい」という話ではないことです。
業務量に対して人員が足りていないのであれば、個人の努力だけで解決するには限界があります。
業務の優先順位を見直す、不要な作業を減らす、システム化を進めるなど、仕事の進め方そのものを見直す必要があります。
③ 引き継ぎが十分にできない
退職が決まると、通常業務を進めながら引き継ぎを行う必要があります。
ところが、経理部がもともと忙しい職場では、引き継ぎに十分な時間を確保できないことがあります。
退職する人も、残る人も、日々の業務を止めるわけにはいきません。
その結果、手順だけを説明して終わってしまい、処理の背景や判断基準まで伝えられないことがあります。
例えば、次の二つでは、引き継ぎの質が異なります。
- 「この取引は、毎月この勘定科目で処理してください」
- 「この取引はこういう性質なので、この勘定科目で処理しています。条件が変わった場合は、ここを確認してください」
前者では、同じ取引を処理することはできても、例外的な取引が発生したときに判断できないかもしれません。
後者では、処理方法だけでなく、その理由も共有されています。
経理業務では、過去と同じ処理を繰り返すだけでなく、取引の内容に応じて判断する場面もあります。
だからこそ、引き継ぎでは「何をするか」だけでなく、「なぜそうするのか」まで共有することが重要です。
④ 忙しさが評価につながりにくい
経理部の仕事は、問題なく処理されていると、その大変さが見えにくいことがあります。
支払が予定どおりに行われる。決算が期限内に終わる。数字に大きな誤りがない。
これらは会社にとって重要なことですが、日常的に問題が起きていないと、当たり前のこととして受け取られてしまう場合もあります。
一方で、経理部では、表から見えにくい作業も多くあります。
- 数字が合わない原因を調べる
- 他部署に資料の提出を依頼する
- 過去の取引を確認する
- 会計処理の妥当性を検討する
- 監査や税務の質問に対応する
こうした仕事には、経験や知識、判断力が必要です。
しかし、処理件数や目に見える成果だけで評価されると、調査や確認に費やした時間、ミスを未然に防いだことなどが十分に伝わらない可能性があります。
経理部の働きや貢献を適切に把握するには、単に「何件処理したか」だけでなく、業務の難易度、改善効果、リスクの低減なども考慮する必要があります。
⑤ 採用しても定着しない
退職者が出た場合、新しい人を採用すれば解決するように思えるかもしれません。
しかし、新しく入った人が業務を覚え、独力で仕事を進められるようになるまでには時間がかかります。
その間、既存のメンバーは自分の仕事を進めながら、教育や確認も担当することになります。
教育体制が整っていない職場では、次のような問題が起こることもあります。
- 教える人によって説明が異なる
- 質問したくても、周囲が忙しくて聞けない
- 十分な説明がないまま仕事を任される
- ミスが起きても、原因を振り返る時間がない
こうした環境では、新しい担当者が不安を感じたり、仕事を覚えるまでに必要以上の負担がかかったりする可能性があります。
もちろん、退職や定着には、給与、本人のキャリア、家庭の事情、職場との相性など、さまざまな要因があります。
すべてを職場の仕組みだけで説明することはできません。
ただし、採用を繰り返しても同じ問題が起きるのであれば、採用人数だけでなく、教育方法や業務分担にも目を向ける必要があります。
経理部の退職問題を改善するには?
経理部で退職が続いたとき、まず必要なのは、個人の頑張りに頼るだけの状態から抜け出すことです。
例えば、次のような取り組みが考えられます。
業務を見える化する
誰が、どの業務を、いつ、どのように進めているのかを整理します。
担当者しか知らない業務や、特定の人に集中している仕事を把握することが、改善の出発点になります。
手順と判断基準を共有する
作業手順だけでなく、処理の理由や例外が発生した場合の確認先も記録します。
すべてを細かいマニュアルにすることが難しければ、まずは決算や支払など、止まると影響が大きい業務から始めてもよいでしょう。
業務量と人員のバランスを確認する
業務を効率化しても仕事が終わらない場合は、業務量と人員が合っているかを確認する必要があります。
不要な作業をなくす、締切や分担を見直す、必要に応じて人員を補充するなど、複数の方法を検討します。
経理部の仕事を適切に評価する
処理件数やスピードだけでなく、正確性、業務改善、リスク管理、他部署との調整なども評価の対象として考えます。
経理の仕事には、数字を入力するだけでは測れない価値があるからです。
退職者の声を改善に活かす
退職理由は人によって異なりますが、複数の退職者から似たような意見が出ている場合、組織として見直せる点があるかもしれません。
個人の不満として片づけるのではなく、業務量、教育体制、評価、マネジメントなどの観点から振り返ることが大切です。
ただし、退職理由を無理に聞き出すのではなく、本人の意思やプライバシーに配慮する必要があります。
まとめ|人の問題だけでなく、仕組みも考える
経理部で退職が起きると、残されたメンバーの業務量が増えたり、引き継ぎが難しくなったりすることがあります。
その背景には、次のような問題が隠れているかもしれません。
- 業務が特定の人に集中している
- 退職しても仕事が減らない
- 引き継ぎに十分な時間を確保できない
- 仕事の負担や貢献が評価されにくい
- 採用後の教育体制が整っていない
もちろん、退職の理由は一人ひとり異なります。すべての退職を、職場の問題だけで説明することはできません。
それでも、退職が繰り返されているのであれば、個人の努力や忍耐に頼るだけではなく、仕事の進め方や組織の仕組みを見直す余地がないか考えてみることが大切です。
経理部の仕事は、会社のお金や数字を正しく管理し、会社の活動を支える仕事です。
その仕事を安定して続けていくためには、担当者一人ひとりの能力だけでなく、誰かが退職しても業務を継続できる仕組みも必要なのではないでしょうか。
人が辞めることだけに注目するのではなく、人が辞めても仕事が回る組織になっているか。
経理部の退職問題を考えるときには、その視点も大切だと思います。


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