「経理の仕事って、事務職ですよね?」
そんなふうに言われることがあります。
たしかに経理には、請求書の処理、入出金の確認、仕訳入力、書類の整理など、事務的な仕事がたくさんあります。
でも、経理の仕事を長く経験している人ほど、少し違和感を覚えるかもしれません。
なぜなら、経理には知識や経験をもとに判断する仕事もたくさんあるからです。
では、経理は「事務職」なのでしょうか。
それとも「専門職」なのでしょうか。
今回は、経理という仕事の「専門性」について、あらためて考えてみたいと思います。
経理には、たしかに「事務」の仕事が多い
まず、経理の仕事に事務作業が多いことは間違いありません。
- 請求書を処理する
- 入出金を確認する
- 仕訳を入力する
- 経費精算を処理する
- 売掛金・買掛金を管理する
- 銀行の入出金を確認する
- 証憑を整理する
これらは、正確さや処理スピードが求められる仕事です。
決められた手順に沿って、間違いなく処理することも経理にとって大切な能力です。
その意味では、経理に「事務職」という側面があるのは間違いありません。
ただ、経理の仕事は、これだけではありません。
経理には「判断」が必要な仕事がある
経理の仕事が単なる事務作業ではないと感じるのは、「何をどう処理するのかを考えなければならない場面」があるからです。
例えば、会社で新しい取引が発生したとします。
そのとき、単純に「この金額を入力すればいい」という話ではないことがあります。
その取引は何なのか。
いつの取引なのか。
会社は何を受け取り、何を負担したのか。
会計上、どのように考えるべきなのか。
場合によっては、税務上の取り扱いについて専門家に確認する必要もあります。
つまり、経理には「入力する仕事」だけでなく、「考えて処理する仕事」があります。
同じ「仕訳」でも、専門性には差がある
例えば、仕訳入力だけを見ると、経理の仕事は単純に見えるかもしれません。
しかし、実際には、仕訳そのものよりも「なぜ、その仕訳になるのか」を理解しているかどうかが重要です。
決められた仕訳を入力するだけなら、手順を覚えることで対応できる仕事もあります。
一方で、初めて見るような取引が出てきたときには、そうはいきません。
過去の処理をそのまま真似するのではなく、取引の実態を理解し、会計の考え方に照らして処理を判断する必要があります。
ここには、単なる事務処理とは違う専門性があります。
経理の専門性は「知識」だけではない
では、経理の専門性とは何でしょうか。
簿記や会計基準を知っていることは、もちろん重要です。
でも、それだけでは十分ではありません。
実務では、知識を使って「このケースではどう考えるのか」を判断する必要があるからです。
例えば、次のような力です。
- 取引の内容を正しく理解する力
- 会計のルールに照らして考える力
- 数字の異常や違和感に気づく力
- 過去の処理との違いを見つける力
- 税務や法務など、周辺分野との関係を考える力
- 必要なときに専門家へ適切な質問をする力
- 自分の考えを相手に説明する力
こうしたものは、単純な事務処理だけでは身につきません。
「分からないことを調べる力」も専門性
経理の仕事では、すべてのことを知っている必要はありません。
むしろ、実務では初めて出てくる問題もたくさんあります。
大切なのは、分からないことに出会ったときに、
「分からないから、誰かに任せる」
で終わらせないことです。
まず自分で調べる。
何が分からないのかを整理する。
自分なりの考えを持つ。
そのうえで、税理士や公認会計士などの専門家に質問する。
そして、回答を聞いたら、さらに「なぜそうなるのか」を理解する。
こうした積み重ねが、経理としての専門性につながっていきます。
専門家に「丸投げしない」ことも大切
経理の仕事では、税理士や公認会計士など、外部の専門家とやり取りすることがあります。
難しい会計や税務の問題について、専門家の意見を聞くことはもちろん大切です。
ただ、そこで、
「専門家がそう言っているから、それでいい」
だけで終わってしまうと、自分自身の知識や判断力はなかなか深まりません。
「なぜ、この処理になるのですか?」
「別の処理ではだめなのですか?」
「今回のケースでは、どの部分がポイントなのですか?」
と、自分が納得できるところまで確認する。
そうすることで、専門家からもらった回答が、単なる「答え」ではなく、自分自身の知識になっていきます。
経験を積むほど「作業」から「判断」へ広がっていく
経理の仕事には、経験によって仕事の中身が変わっていく面があります。
最初は、決められた手順に沿って処理することが中心かもしれません。
そこから、少しずつ、
処理する
↓
なぜこの処理なのか理解する
↓
自分で判断する
↓
他の人に説明する
↓
難しい問題について考える
というように、仕事の幅が広がっていきます。
同じ「経理経験10年」でも、どんな仕事を経験してきたかによって、身についた専門性は大きく違うかもしれません。
単純な処理を10年間続けてきた場合と、決算や会計判断、税務、資金繰り、専門家とのやり取りなど、難しい問題に向き合ってきた場合では、経験の中身が違います。
だから、経理にとって大切なのは、単純な「経験年数」だけではなく、「どんなことを考えてきたか」なのだと思います。
経理は「事務職か専門職か」の二択ではない
ここまで考えると、経理を「事務職」か「専門職」かのどちらか一方に分類するのは、少し無理があるように思います。
経理には、確かに事務的な仕事があります。
一方で、会計や税務の知識を使い、取引を理解し、判断する仕事もあります。
つまり、
経理には「事務」の側面もある。
でも、経理の仕事には「専門職」としての側面もある。
そして、経験を積み、難しい仕事に向き合うほど、後者の比重が大きくなっていくのではないでしょうか。
経理として成長するなら「作業の正確さ」だけで終わらない
もちろん、正確に処理することは経理にとって非常に重要です。
しかし、そこだけを目標にしてしまうと、経理としての成長が止まってしまうことがあります。
「この数字は何を意味しているのか」
「なぜこの処理になるのか」
「この取引には、ほかにどんな論点があるのか」
「もし自分が経営者だったら、この数字をどう見るだろうか」
こうした問いを持つことで、同じ経理の仕事でも、見えてくるものが変わってきます。
そして、分からないことがあれば、調べる。
専門家に質問する。
AIに何度も質問して、自分が納得するまで考える。
そうやって、一つひとつの仕事を「作業」で終わらせず、自分の知識や判断力に変えていくことが、経理の専門性を高めることにつながります。
経理の専門性は、日々の仕事の中で作られていく
経理の専門性は、資格を取った瞬間に完成するものでもありません。
もちろん、簿記や会計、税務などの知識を身につけることは大切です。
でも、実際の仕事では、教科書どおりにはいかないことがあります。
「これはどう処理するんだろう?」
「なぜ前回と違うんだろう?」
「この取引は、そもそも何を意味しているんだろう?」
そんな疑問に一つずつ向き合う。
失敗したり、間違えたり、ヒヤッとした経験からも学ぶ。
専門家に相談したり、他の人の考えを聞いたりする。
そして、次に同じような問題が出てきたときには、自分で考えられるようになる。
こうした積み重ねが、少しずつ経理としての専門性を作っていきます。
まとめ|経理は「数字を処理する仕事」から「数字を考える仕事」へ
経理には、請求書処理や仕訳入力など、事務的な仕事がたくさんあります。
だから、「経理=事務職」というイメージが生まれるのも自然なことです。
でも、経理の仕事には、それだけではありません。
取引の実態を理解し、会計のルールに照らして考え、必要に応じて専門家と相談しながら判断する。
そして、その結果を数字として会社に残していく。
そこには、確かな専門性があります。
だから、経理を「事務職か、専門職か」の二択で考える必要はないのかもしれません。
むしろ、
「作業する経理」から
「考える経理」へ。
その積み重ねが、経理の専門性を高めていく。
経理という仕事の面白さは、そこにあるのではないでしょうか。
経理は、ただ数字を処理する仕事ではない。
会社で起きていることを理解し、それを会計という言葉で表現する仕事でもあります。
だからこそ、日々の「なぜ?」を大切にしたいものです。


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