「この仕事は、私しかできない」
経理の仕事をしていると、そんな状態になることがあります。
特に中小企業では、経理担当者の人数が限られているうえに、会計・税務・資金繰り・銀行対応など、経験や判断が必要な仕事が一部の人に集中しやすくなります。
そして、気がつくと、
- 難しい仕事は、いつも同じ人が担当する
- 判断が必要な案件は、その人に聞かないと進まない
- 休みの日でも問い合わせが来る
- 本人がいないと、仕事が止まってしまう
- 「結局、自分でやったほうが早い」と思ってしまう
という状態になってしまいます。
これが、いわゆる「属人化」です。
ただ、属人化の問題は、単純に「マニュアルを作れば解決する」というものでもありません。
人手不足やスキル不足が重なると、そもそも難しい仕事を相談できる相手がいないという問題も起こります。
この記事では、経理の仕事が一人に集中してしまう理由と、そこから少しずつ抜け出すための考え方を整理してみます。
- 経理の属人化とは、どんな状態?
- なぜ、経理の仕事は属人化しやすいのか?
- 「属人化をなくす」とは、何でも他の人に任せることではない
- まずは「一人で判断しない」状態を作る
- 「相談できる相手」がいるだけでも、仕事は変わる
- 一緒に考えたことを「残す」
- マニュアルは「完成品」を作らなくてもいい
- 「自分がやったほうが早い」は、属人化を強くする
- 最初から「任せる」のではなく、「一緒にやる」
- 属人化をなくす目的は「その人の価値をなくすこと」ではない
- 「自分しかできない仕事」を少しずつ減らす
- 目指したいのは「自分がいなくても回る」だけではない
- 経理の属人化を減らすために押さえておきたいポイント
- まとめ|「一人で抱える仕事」を少しずつ「みんなで考える仕事」へ
経理の属人化とは、どんな状態?
属人化とは、ある業務について、特定の人だけが知識や経験を持っていて、その人がいないと業務を進めにくい状態のことです。
例えば経理なら、
- 特殊な仕訳の処理方法を一人しか知らない
- 過去の経緯を一人しか把握していない
- 税務上の判断を一人だけができる
- 銀行とのやり取りを一人だけが担当している
- 資金繰りの状況を一人だけが把握している
- 決算で何を確認すべきか、一人の経験に依存している
といった状態です。
本人にとっては、「自分が必要とされている」ということでもあります。
でも、会社という組織の視点から見ると、少し違った問題が見えてきます。
一人に知識・経験・判断が集中
↓
その人がいないと仕事が進まない
↓
会社としてのリスクになる
よくあるのが、ベテラン社員の経験やスキルに依存して業務が属人化し、担当者に仕事が偏るケースです。
なぜ、経理の仕事は属人化しやすいのか?
経理の属人化には、いくつかの理由があります。
人手が足りない
まず、単純に人が足りないことです。
日々の経理処理に追われていると、新しい担当者に仕事を教える時間を確保することが難しくなります。
その結果、
「教えるより、自分でやったほうが早い」
となってしまいます。
これが、属人化をさらに強くしていきます。
難しい仕事ほど経験が必要
経理には、単純な入力作業だけではなく、経験や判断が必要な仕事があります。
例えば、複雑な取引の会計処理や決算整理、税務上の論点、資金繰りなどです。
こうした仕事は、マニュアルを一度読んだだけでできるようになるものではありません。
実際の案件を経験しながら、少しずつ判断力を身につけていく必要があります。
「なぜそうするのか」が共有されていない
さらに問題なのが、手順だけが残っていて、「なぜ、その処理をしているのか」が共有されていないケースです。
例えば、
「この仕訳をしてください」
という指示だけでは、例外的な取引が発生したときに対応できません。
一方で、
「この取引では、会社が何を得て、何を負担したのかを考える。その結果として、この処理になる」
という考え方まで共有されていれば、似たような別の取引にも応用できます。
属人化を減らすには、作業手順だけでなく、判断の考え方も少しずつ共有することが重要です。
「属人化をなくす」とは、何でも他の人に任せることではない
ここは、属人化を考えるうえで大切なポイントです。
「属人化をなくしましょう」と言われると、
「全部、誰でもできるようにしなければいけない」
と考えてしまうかもしれません。
しかし、すべての仕事を完全に標準化する必要はありません。
高度な専門知識や経験が必要な仕事まで、無理に誰でもできる仕事に変えるのは現実的ではありません。
大切なのは、「本当にその人にしかできない仕事」と「その人しかやっていないだけの仕事」を分けることです。
| 状態 | 考え方 |
|---|---|
| 手順を知らない | マニュアル・教育で共有する |
| 判断基準を知らない | 判断の考え方を共有する |
| 経験が不足している | 一緒に案件を経験する |
| 専門性が高い | 専門家との連携も検討する |
| 本当に高度な判断が必要 | 最終判断を経験者が担う |
つまり、属人化対策とは、経験者の仕事をなくすことではありません。
経験者が本当に判断すべき仕事に集中できるようにすることです。
まずは「一人で判断しない」状態を作る
属人化を減らすために、最初から仕事を完全に引き継ぐ必要はありません。
むしろ、最初の一歩としておすすめしたいのが、「一人で判断しない」ことです。
例えば、難しい取引が発生したとします。
これまでは、
難しい取引が発生
↓
自分で調べる
↓
自分で判断する
↓
自分で処理する
という流れだったとします。
これを、
難しい取引が発生
↓
一緒に内容を確認する
↓
「なぜこの処理になる?」を考える
↓
経験者が最終確認する
という形に変えてみます。
最初は、相手が答えを出せなくても構いません。
大切なのは、難しい仕事について考える経験を一緒に積むことです。
「相談できる相手」がいるだけでも、仕事は変わる
属人化の問題は、仕事が一人に集中することだけではありません。
その人が「一人で考え、一人で判断し、一人で責任を負う」状態になってしまうことも問題です。
経理では、正解がすぐには分からない問題もあります。
例えば、
- この取引はどう処理するのが適切なのか
- 会計上と税務上で考え方が違うのではないか
- この処理には別の方法もあるのではないか
- この判断は決算にどんな影響を与えるのか
- 専門家に確認したほうがよいのではないか
こうしたことを一人で抱えるのは、かなり大きな負担になります。
だからこそ、最初から「仕事を任せられる人」を作ることだけを目指すのではなく、「一緒に考えられる人」を作るという考え方も大切です。
一緒に考えたことを「残す」
相談しながら仕事を進めるようになったら、次にやりたいのが記録を残すことです。
例えば、難しい取引について、
- どんな取引だったのか
- 何が論点だったのか
- どのように考えたのか
- 最終的にどう処理したのか
- 専門家に確認したのか
- 次に似た取引が出たらどうするのか
を簡単に残しておきます。
これは、立派なマニュアルでなくても構いません。
「判断メモ」のような簡単なものでも十分です。
一緒に考える
↓
判断理由を残す
↓
次の人が参考にできる
↓
少しずつ知識が会社に残る
こうして、頭の中にしかなかった知識や経験を、少しずつ会社の共有財産に変えていきます。
マニュアルは「完成品」を作らなくてもいい
属人化対策というと、分厚い業務マニュアルを作ろうとする会社もあります。
しかし、最初から完璧なマニュアルを作る必要はありません。
むしろ、
「実際に仕事をしながら、少しずつ残していく」
ほうが現実的なこともあります。
例えば、
- 毎月の決算手順を箇条書きにする
- 特殊な仕訳の判断理由を残す
- 銀行対応の流れをメモする
- 税理士に確認した内容を残す
- 過去に起きたトラブルと対応方法を記録する
こうした小さな記録が積み重なって、後から業務マニュアルになっていきます。
「自分がやったほうが早い」は、属人化を強くする
属人化を生みやすい言葉があります。
それが、
「自分がやったほうが早い」
です。
これは、実際その通りであることも多いと思います。
経験のある人なら30分で終わる仕事を、経験のない人に任せると2時間かかることもあります。
だから、忙しいときほど自分でやってしまいます。
しかし、それを繰り返していると、いつまで経っても他の人は経験を積めません。
自分でやる
↓
早く終わる
↓
でも、相手は経験できない
↓
また自分がやる
この繰り返しが、属人化を強くしてしまいます。
だからこそ、時間に余裕があるときだけでも、「一緒にやる」ことが大切です。
最初から「任せる」のではなく、「一緒にやる」
いきなり仕事を丸ごと任せるのが難しいなら、段階を分けてみます。
| 段階 | やること |
|---|---|
| 一緒に見る | まず仕事の内容を知ってもらう |
| 一緒に考える | 判断の理由を説明する |
| 一部を任せる | 簡単な部分から担当してもらう |
| 確認する | 最後に経験者がチェックする |
| 任せる | 徐々に担当範囲を広げる |
こうすると、いきなり「全部覚えてください」と言う必要がありません。
そして、経験者にとっても、いきなり仕事を手放すのではなく、確認しながら少しずつ渡していくことができます。
属人化をなくす目的は「その人の価値をなくすこと」ではない
経験豊富な経理担当者がいる会社では、その人にしか分からないことがたくさんあります。
それ自体が悪いわけではありません。
むしろ、その経験や知識は会社にとって大きな財産です。
問題なのは、
その知識や経験が、その人の頭の中だけにあること
です。
だから、属人化対策の目的は、経験者の仕事をなくすことではありません。
経験者が持っている知識や判断の考え方を、少しずつ会社に残していくことです。
そして、経験者には、単純な作業ではなく、より難しい判断や改善、経営への提案などに時間を使ってもらう。
そう考えると、属人化対策は「仕事を奪う話」ではなく、仕事の質を高める話になります。
「自分しかできない仕事」を少しずつ減らす
属人化は、一気になくす必要はありません。
むしろ、最初から完璧を目指すと続きません。
まずは、今抱えている仕事を書き出してみます。
「自分しかできない」と思っている仕事を書き出す
↓
本当に自分しかできないのか考える
↓
一緒にできる人を作る
↓
一緒に考える
↓
判断理由や手順を残す
↓
少しずつ仕事を渡していく
これを一つずつ繰り返していきます。
一つの仕事が二人でできるようになっただけでも、会社にとっては大きな変化です。
目指したいのは「自分がいなくても回る」だけではない
属人化対策というと、
「担当者が休んでも仕事が止まらない」
ことがよく目的として挙げられます。
もちろん、それは大切です。
でも、もう一つ大切なことがあります。
それは、
「一人で抱えなくていい」
という状態を作ることです。
難しい問題が出てきたときに、誰かに相談できる。
一緒に考えてもらえる。
自分とは違う視点から意見をもらえる。
そして、最終的な判断を一緒に確認できる。
それだけでも、経理担当者の負担は大きく変わります。
仕事を「一人で完結させる」ことから、「チームで考えて進める」ことへ変えていく。
これも、属人化対策の大切な一歩だと思います。
経理の属人化を減らすために押さえておきたいポイント
- 属人化とは、特定の人に知識・経験・判断が集中している状態。
- 人手不足やスキル不足が、属人化をさらに強くすることがある。
- 「属人化をなくす」ことと「何でも他の人に任せる」ことは同じではない。
- まずは「自分しかできない仕事」と「自分しかやっていない仕事」を分けて考える。
- いきなり仕事を任せるのではなく、「一緒に見る」「一緒に考える」ことから始める。
- 判断理由や過去の事例を残すことで、頭の中の知識を会社に残していく。
- マニュアルは最初から完璧に作るのではなく、実際の仕事をしながら少しずつ作っていく。
- 経験者には、単純作業ではなく、判断・分析・改善などの仕事に時間を使ってもらう。
まとめ|「一人で抱える仕事」を少しずつ「みんなで考える仕事」へ
経理の属人化は、単に「一人しか仕事ができない」という問題ではありません。
人手不足やスキル不足が重なると、難しい仕事ほど経験のある人に集中し、結果として、その人が一人で判断し、一人で処理し、一人で責任を負う状態になってしまいます。
だからこそ、属人化対策は、いきなり仕事を誰かに丸投げすることではありません。
まずは、
一緒に見る。
一緒に考える。
判断した理由を残す。
そして、少しずつ任せていく。
これを繰り返していきます。
「自分しかできない」をゼロにするのではなく、
「自分一人で抱えなければならない」を少しずつ減らす。
そして最終的には、
「自分がいなくても仕事は回る。
でも、自分がいることで、より難しいことを考えられる」
そんな状態を目指せると理想的です。
属人化をなくすというのは、経験豊富な人の価値をなくすことではありません。
その人が持っている知識や経験を、一人の中だけに閉じ込めず、少しずつ会社の力に変えていくこと。
それが、経理の属人化と向き合うということなのではないでしょうか。


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